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(1) 現状と課題
陸域から東京湾へ流入する汚濁負荷を削減するため、下水道の整備、地域事情に応じ、
農業集落排水施設、合併処理浄化槽等の各種生活排水処理施設の整備、河川直接浄化
施設の整備、河岸の改良、森林の整備・保全等の水質改善事業が実施されてきた。
しかしながら、東京湾は流域に大きな汚濁源を有する閉鎖性水域のため、未だ富栄養
化による赤潮・青潮等の現象がみられる。このため、有機汚濁負荷削減と共に、栄養塩類
である窒素、りんの除去も対象とした水質改善事業の更なる推進が必要である。しかしな
がら、高度処理の導入には新たな費用負担が生じ、その導入は十分進んでいない。よっ
て、河川を含めた水質保全、例えば高度処理に要する費用負担については、受益と負担
の観点から行政単位だけではなく流域単位での最適な方法についても検討することが重
要である。また、東京湾に流入する汚濁負荷には、家庭、事業所等から発生する点源負
荷以外も、市街地、農地等から流出する面源負荷があり、水質改善を図るためには、面
源対策も進める必要がある。
近年では、レジャー・レクリエーション活動の活発化により、人々の海への回帰が進み、
親水護岸、人工海浜の整備等を図られているにもかかわらず、雨天時等は浮遊ゴミ等が
存在しているため、景観、衛生面の観点から、改善を図る必要がある。
@ 水質総量規制
東京湾においては、COD等の生活環境の保全に係る水質環境基準を確保することを目
途として関係地域から発生する汚濁負荷量を総合的かつ計画的に削減するため、各都府
県の総量削減計画の策定、総量規制基準による事業場等の規制、生活排水対策の推進
等を内容とする水質総量規制が、昭和54年度より実施されてきている。平成16年度を目
標年度とする第5 次水質総量規制においては、これまでのCODに加え新たに窒素及びり
んが削減の対象とされたところである。
A 水質浄化事業
下水道事業は平成13年度現在136市町村において実施されており、東京湾流域内に
81箇所の下水処理場(うち流域下水道の処理場は17箇所)が稼動している。東京湾流域
内の2847.3万人の住民のうち、2444.2万人の住民が下水道に接続しており、下水道
の処理人口普及率は86%(全国平均63.5%)と高い状況にある。しかし、中小市町村の
普及率は、まだ十分と言えず、中小市町村を中心とした普及促進が必要となる。
東京湾の水質環境基準を達成するために、東京湾を対象とする流域別下水道整備総合
計画に関する基本方針では下水道の高度処理が必要とされている。しかし、平成13年度
現在、東京湾流域内の処理場のうち高度処理を導入している処理場は14箇所のみであり、
高度処理人口は175.7万人で高度処理人口普及率は6%となっており、全国平均9.7%、
伊勢湾及び瀬戸内海と比較して低い状況にある。東京湾の水質改善には高度処理の導入は不可欠であり、今後、強力に整備推進を図る必要がある。
東京湾流域内においては、平成13年度現在、37都市が合流式下水道を採用している。
近年、合流式下水道からの雨天時未処理放流水による周辺海域の水質悪化が顕在化し
ており、合流式下水道の改善を緊急に実施する必要がある。
農業集落排水事業は、平成13年度現在、東京湾流域内の埼玉県、千葉県において30
市町村で実施されており、東京湾流域内に66箇所の農業集落排水施設が稼動している。
東京湾流域内では38.5万人が整備対象人口となっており、そのうち5.3万人の住民が
農業集落排水施設に接続しており、整備対象区域に対する整備率は14%となっている。し
かしこの整備率は、全国の平均整備率31%に比べ遅れており、今後、東京湾流域におけ
る農業集落排水施設の整備を重点的に促進する必要がある。
合併処理浄化槽整備事業は、平成13年度現在、東京湾流域内の106市区町村で実施
されている。東京湾に関わる4都県では、115万人の住民が浄化槽を使用しており、浄化
槽による処理率は4%となっている。一方、水質汚濁の原因ともなる単独処理浄化槽につ
いては、官民を挙げた新設廃止への取組が行われ、平成12年度には浄化槽法の改正に
より、既設単独処理浄化槽を使用するものは、下水道予定処理区域にあるものを除き、合
併処理浄化槽への設置替え又は構造変更に努めなければならないこととなった。今後は、
住民意識を高めるほか、市町村が主体となって浄化槽の整備・維持管理を行う事業を積極
的に活用し、単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換を促進するとともに、窒素また
はりんの除去性能を有する浄化槽の整備を促進する必要がある。
B その他
森林は、樹木等の植生や土壌の働きにより、水質の浄化に役立っている。また、4都県に
おける森林の面積は47万ha と総面積の36%を占めている。
このため、間伐等の必要な森林に対し、その重点的な実施等、森林の整備に取り組むと
ともに、森林の生育基盤である林地を保全するための施設の整備や保安林の指定など、
計画的な森林の整備・保全を推進している。
しかしながら、林業の採算性の悪化などにより、伐採後に植林されず放置されている森
林があるなど、必要な森林の整備が十分行われていない森林が多くあることなどを踏まえ、森林の整備・保全を計画的に実施していくことが必要である。
(2) 陸域からの汚濁負荷の削減方策
東京湾における早急な水質改善を図るため、水質総量規制制度に基づき各都県が策定
する総量削減計画の着実な実施及び事業場に対する総量規制基準の遵守の徹底等を図
るとともに、流域単位において、関係機関等と連携のもと、高度処理、面源汚濁負荷対策
等を含めた効率的、総合的な負荷削減のための計画策定及び事業実施を図る。なお、総
合的な負荷削減のための計画策定を行うため、雨天時等の流出負荷量の評価を行うため
の調査を実施する。
また、閉鎖性水域を対象として、効率的に環境基準等の目標を達成するため、新たに経
済的手法の適用を含む流域全体の費用負担の方法について検討する。
@ 水質浄化に向けた施策
下水道においては、東京湾流域別下水道整備総合計画に関する基本方針に基づいた
各都県における流域別下水道整備総合計画等に従い、中小市町村での普及促進、高度
処理の促進、合流式下水道改善等を積極的に行う。計画期間内に、流域内で下水道事業
を予定している全市町村において、事業に着手するものとし、高度処理についても新たに
概ね20処理場での供用開始を目指す。
合流式下水道からの雨天時未処理放流水は放流先での水質の悪化、水利用者に対す
る景観・公衆衛生及び生態系への影響が懸念されていることから、合流式下水道の改善
計画を策定し、10年以内を目途に以下のような目標を達成するため、重点的に改善事業
(ろ過スクリーン設置、貯留施設、消毒施設整備等)を実施していく。
<施策内容>
○合流式下水道から排出されるBOD汚濁負荷量を分流式下水道以下にする。
○自然吐きやポンプ施設における全ての吐き口において越流回数を少なくとも半減
する。
○原則として、自然吐きやポンプ施設における全ての吐き口において夾雑物の流出
防止を実施する。
農業集落排水施設の整備に関して、東京湾流域の地域を重点的に整備するとともに、既
存施設の機能強化、必要な高度処理の促進を図る。
浄化槽については、住民意識を高めるほか、市町村が主体となって浄化槽の整備・維持
管理を行う事業を積極的に活用し、既存の単独処理浄化槽から、合併処理浄化槽への転
換を促進するとともに、窒素又はりんの除去性能を有する浄化槽の整備の促進を図る。
河川の浄化対策については、河川直接浄化施設による浄化、浄化用水の導入、浚渫等
の有機汚濁対策に加え、湿地や河口干潟再生に伴う窒素・りん等の栄養塩の削減を、当
該河川関係住民の意見をふまえた河川整備計画に基づき、積極的に推進する。
4都県の育成林19万haにおいて、水質浄化等にも資するため、適切な間伐の実施、複
層林の造成など多様な森林の整備を進め樹木の健全な成長や下層植生の繁茂を促すとと
もに、林地を保全するための施設の整備等を推進する。
面源から発生する汚濁負荷の削減を行うため、流出する負荷を浄化するだけでなく、貯
留、浸透施設の設置等により雨水の流出を抑制し、汚濁負荷の削減を図る。
景観等の観点から行う浮遊ごみ等の回収については、公的主体のみでなく、流域に住む
住民の協力が重要であり、市民活動の取組を促進する必要がある。
都市の再開発等と連携一体化した汚濁負荷流出削減施設の整備等、東京湾にやさしい
都市構造の構築を進める。
A 各アピールポイントの水質改善のための施策
東京湾全体の水質改善のため、各アピールポイントにおいて陸域対策として実施する代
表的な施策は以下のとおりである。
(イ) いなげの浜〜幕張の浜周辺
千葉市南部浄化センターにおいて、高度処理を導入し、汚濁負荷削減を図るものとする。
また、千葉市中央処理区においては、吐け口のスクリーン設置、貯留・浸透施設等、合流
式下水道の改善を図る。さらに、当地区に流入する河川流域において、単独処理浄化槽か
ら合併処理浄化槽への転換促進、高度処理型浄化槽の設置等の推進を図る。
(ロ) 三番瀬周辺
江戸川左岸流域江戸川第二終末処理場において高度処理を導入し、汚濁負荷削減を図
るものとする。また、当地区に流入する河川流域において、単独処理浄化槽から合併処理
浄化槽への転換促進、高度処理型浄化槽、河川の直接浄化施設の設置等の推進を図る。
(ハ) 葛西海浜公園周辺
埼玉県荒川流域荒川処理センターに高度処理を導入し、汚濁負荷削減を図るものとする。
さらに、綾瀬川等当地区に流入する河川において浚渫等の河川浄化対策、荒川河口域に
おける干潟の再生を実施する。
(ニ) お台場周辺
三河島処理場で高度処理を導入し、汚濁負荷削減を図るものとする。また、お台場海浜
公園への白色固形物の漂着する日数をゼロとするため、芝浦処理区の渋谷川、古川流
域において河川事業と下水道事業とが連携した雨水貯留管の設置、雨水吐き口における
スクリーン施設の設置等を行う。さらに、隅田川流域において、浚渫や河川の直接浄化施
設の設置等により汚濁負荷量の削減を図る。
(ホ) 多摩川河口周辺
川崎市等々力水処理センターで高度処理を導入し、汚濁負荷削減を図るものとする。ま
た、入江崎処理区においてポンプ場沈砂池のドライ化*、雨水吐き室におけるスクリーン施
設の設置等を行い合流式下水道の改善を図る。さらに、下水道処理区域外の臨海部にお
いては、単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換促進を図る。
(ヘ) みなとみらい21周辺
横浜市神奈川下水処理場における高度処理の施設整備を推進するとともに、雨水滞水
池による合流式下水道の改善により、汚濁負荷の削減を図るものとする。
(ト) 海の公園・八景島周辺
横浜市金沢下水処理場に高度処理を導入し、汚濁負荷削減を図るとともに、金沢ポンプ
場沈砂池のドライ化や、ポンプ場放流水の消毒を行う。
(*)ポンプ場沈砂池のドライ化:降雨終了後にポンプ場における沈砂池等で汚濁物が含
まれる滞留水を取り除くこと。 |
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